鹿児島句会
2009年11月12日木曜日 22:09
鹿児島の秋の吟行は、錦灘酒造のチェコ村にあるレストラン「リトル・プラハ」でピルスナー・ビールの乾杯からスタートした。チェコを代表するピルスナー・ビールの製法技術が、そのまま錦灘酒造の「霧島高原ビール」に受け継がれている。
その喉越しは、透き通ったボヘミアの風。クリーミィーな泡は、綿花の舌触り。これで句作心を揺さぶろうという山元紀子社長の計らいかもしれん。
「今回は、句の中に"泡"または、"あわ"の二文字を織り込んで詠んで頂きましょう」と、決めさせていただいた。しかしながら、早朝、羽田発の便で到着したばかり、おまけに腹ペコだった。これで目の前に、なまめかしい黒豚の切り身が横たわっているのだから、もう堪りません。さらに、小平カメラマンが立ち上がって「熊本の健康食品会社"果実堂"から、採れたての"ベビーリーフ"(幼葉野菜)とドレッシング・セットが届いてますよ~」と、空腹難民への容赦無い仕打ちの言葉。ちなみに僕は、果実堂の甘夏ドレッシングを愛用している。ついに俳人の魂は、ピルスナーと黒豚がメーンの "酒を以って池と為(な)し、肉を懸(か)けて林と為す"『史記』(殷本紀)・「酒池肉林」へと沈み込みました。結局、進行役の味香り戦略研究所・小柳社長に頼んで、句作の締め切り時間を40分ほど延長していただいた。
地元から参加くださったメンバーは、ほぼ全員が俳句初心者。南国の大らかさも手伝って、俳句に気後れする様子はなく、五・七・五の言葉遊びをツマミとして楽しんでおられた。おおむね川柳調の句ながら、「嬉々として捉えた鹿児島の秋」が可笑しく伝ってくる内容のものばかりだった。さすがに柔軟な感性を持つ薩摩人です。
──振られて・消えて・泡・あわてて・あわわわ・泡の恋・シャボン玉・バブリー・etc──などの語が句中に見られ、「ETC(エトセトラ) あわてて付けて えっ、無料?」なんて、高速道路の無料化にかけた見事な川柳もあった。
さて、お腹も酔いも程よく満たされたところで挑んだ僕の句作プロセスを披露します。
記念撮影など御一緒しているうちに、残された句作時間は15分。先ず、「リトル・プラハ」を出て、別棟の焼酎展示館へ足を延ばそうとしたやさき。「一葉の恋日記」なるポスター・ロゴが目を引いた。それは、深いコバルト・ブルーの瓶に貼られたラベルのロゴと同じく、黒麹仕込み焼酎の人気銘柄だった。たちまち、樋口一葉の愁いを帯びた着物姿が浮び、甘い香りも漂うて来るではありませんか。それで、すかさず一句。
──あわや夜(よ)の 恋は一葉 果てぬれど──を、未推敲の句をとりあえずメモした。そして、中庭を抜け、酒造場の外へと散策に......。あわわ、あと制限時間は五分。駐車場脇に、背高泡立ち草の群生地を見つけた。泡立ち草は、風に乱されて折り重なっている。時間にせかされて、あわただしい中の一句。
──せかされて 恋の泡だち草 乱(みだ)る──と、詠んだ。
今、品の良い香りと、ほんのりした甘さが女性に受けている「一葉の恋日記」が、発句となり、一種の蔵元への挨拶句による連句仕立てとなりました。句に深い意味などありませんが、危うい未熟な情事の様を連想してみて下さい。ま、限りなくお座敷・川柳に近い句です。如何ですか?たまには、ほろ酔い俳句で遊んでみては......。
句会が終わって、天文館へなだれ込みました。一軒目が、八角形のカウンターがユニークな「はる日」。壁には、白銀酒造の焼酎ボトルがずらりと並んでいる。偶然居合わせたファンの女性二人と、熱々の乾杯。お世話になった南日本新聞の能勢さんも駆けつけて下さった。「いざ次ぎへ」と、移動中にも、地元の方々と嬉しい触れ合いがある。中には小学生のお嬢さんを連れたご夫婦からも熱いエールを送っていただきました。
二軒目は、魚料理がおはこの居酒屋。その名も「おはこ」。ここでは、霧島横川酒造の芋焼酎を水割りで頂いた。が、もう酔いは佳境というところ。そして、店主に、「一軒だけ付き合ってください」と、口説かれて、天文館の迷路へ。ただ、一軒だけなんてのは、ウソに決まってます。当然、ハシゴ酒でしたが、三軒ほどしか記憶に残って無いんですね。コレが......。心残りは、句会に参加していただいたご兄弟の経営する居酒屋へ寄れなかったことです。
いずれにしても、熱い鹿児島。瞼まで熱くなります。
ラベル: 錦灘酒造