明るい農村

2009年11月19日木曜日 15:07

 霧島連峰を望む農村風景の中、国分方面から霧島神宮へ到る県道60号線沿いに霧島町蒸留所がある。蒸留所入り口の壁に短冊状の板が掲げられており、──よき焼酎は──よき土から生まれ──よき土は──明るい農村にあり──と、書かれていた。まず、ここで"明るい農村"が芋焼酎の銘柄だと分かる人は、相当な焼酎ツウです。日の出を表す赤い玉に、太い明朝系のロゴで"明るい農村"と重ね書きされたラベルは、一度見たら忘れられない。


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「なんとも野暮ったいラベル、怪しいイメージ、などとよく言われましたよ」と、蔵主の古屋芳高さんは述懐する。確かに洗練されたラベルとはほど遠いデザイン。しかし、この野暮ったさのおかげで強烈な印象が残る。まして、農村は日本人の心に棲みついた原風景とも言える。


 蒸留所の環境は、裏手に清らかな霧島川が流れ、連峰の豊富な湧水を仕込み水とする恵まれたもの。緩やかな傾斜を持つ高原なのだから、文字どおり明るい農村地帯に違いない。そして、まだまだ面白い名の銘柄がある。例えば、黄麹仕込み「百姓百作」。原材料の芋は種子島特産の安納(あんのう)芋で造っている。自然と共生する百姓は、百種類ほどの農作物を作る。だから百作なんですね。まさしく豊饒の地の住人ならではの発想だ。


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 ちょっと可笑しい生い立ちを持つ芋焼酎もあった。「その年の焼酎は、匂いが強すぎて売れ残ったんです。それで古酒になったところ・・」と、説明されたのが「鼻つまみ焼酎」だった。ところが、古酒になった焼酎は、鼻つまみどころか仄かなフルーティー香とまろやかな含み感。しっかりとスジの通った上品なスピリッツへと変貌した。ただ、希少な銘柄となったゆえ、入手は困難極まりない。だが、まだまだ霧島町蒸留所の隠し玉は、これで終わらなかった。


 健康食ブームに登場した、赤米や黒米の古代米を食した人も少なからず居そうだ。もう一種、緑米というのがあった。かなり栽培が難しく、希少価値も手伝ってそうとう高価らしい。この緑米の麹仕込みで「二十三座四十八池」(にじゅうさんざ しじゅうはちいけ)と銘打った芋焼酎を古屋さんに差し出された。一見、スリムで背の高いボトル500ml入りは焼酎というより、色あいからしてもグラッパか何かを想像してしまう。


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「緑米を麹に使うもので、原材料費はブランデーより高くつきそうです」という。味は、緑米の麹が効いていて、知らずに飲めば十中八九日本酒の古酒と勘違いするだろう。濃厚な舌触りと、ちょいとハードなキレ味。しかも、極上の・・。小さな蒸留所ならばこそ誕生する逸品かもしれない。


「ひょっとしたら、明るい農村を越えて、明るい日本創りになりそうですね」と、互いに納得しあって握手。蒸留所をおいとました。


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 外は、恵の雨。霧島の峰々は、時雨れても良い。