晩秋の始球式
2010年11月15日月曜日 21:00
・・・マウンドの 天高々と ハイボール・・・(類)。この一句、澄んだ晩秋の空に小さな硬球ほどの記憶として留まるかもしれない。なにせ、僕が始球式に登場するなんて、誰一人想像し得なかったからだ。しかも、横浜スタジアムで開催されるベイスターズ対ジャイアンツの公式戦でBSテレビの実況中継時間内に放送された。
ただ、中年ともなれば"人生にはどんな事だって起こりうる"ということを経験的に感じている。だから、あわてたりはしないものの、最後にボールを投げたのがいつだったか思い出せない。そこで、多摩川の河川敷にある市民グランドをこっそり借りて投げてみた。あれっ、届かないじゃあないか。もうボールを投げる筋肉は数十年の休眠状態となっていたのだろう。それに気づいたのが当日から10日ほど前のこと。酔い覚ましがてら早朝の自主トレを開始した。
ついに、はれのピッチャーズ・マウンド。「酒場放浪記」のテーマ曲となっているエジプシャンファンタジーに乗って登場し、そして投げた。真新しい白球はふわぁ~と手を離れ、山なりフォーク・ボールでキャッチャー・ミットにゆるゆると納まった。巨人軍の長野選手が御約束の空振り。実は、最も緊張感に包まれていたのは、TVで見守っていただいていた全国のファンの方々だったという。僕の心の中にも「ワッー」と歓声が轟いてきた。どうやら、投球練習に大手術を控えた身体で付き合ってくれた新聞記者の小泉さんと御子息への面目も立った。二人は大喝采してくれたらしい。
以前、テレビの仏教講座で"痴聖"という言葉を聞いたことがある。真理に無頓着な聖者、あるいは無心に遊ぶ大人とでも訳せるだろうか。矛盾する二語から成っている。アイドルなどという柄でもなく、ほろ酔うてかの中年男のピッチングと、それを見守る女の子からお年寄りまで・・。みんなに感謝、酒の神様に感謝の始球式だった。
あの一瞬。僕は"痴聖"なる存在に似ていたかも知れない。