岩手を旅する3〜種市で天然のほやを食す

2010年3月25日木曜日 18:37

       「酒王」ブログ№43 盛岡編3 はまなす亭ほか


 以前、岩手県の八幡平に近い山村で新鮮なホヤを食したことがある。決してパイナップルのような味とは思えなかったが、何処のホヤよりも美味しく感じた。その時、偶然見ていたテレビ画面に、農村風景の中で会話を交わす農家の人々が映し出されていた。

「へー、のどかな韓国の田舎ですね。言葉は分からないけど日本の農村とほとんど変わらない」。居合わせた家人たちが一同、顔を見合わせてきょとんとしている。やがて、僕の勘違いに気付いた一人が、「類さん、あれは岩手の方言ですよ」。僕は、てっきり韓国テレビの電波を受信しているのだと思っていた。

 それ以来、新鮮なホヤを目の前にするたび、岩手の方言事件が蘇えってくる。今回は青森県との県境に位置する洋野町(ひろのちょう)の種市(たねいち)ふるさと物産館で、本場の味を堪能する計画だった。


 館内に併設する「はまなす亭」へ案内して頂いたのは久慈市雇用開発促進協議会の日向淳さん。「この方が、"ほや母さん"と呼ばれる女将・庭静子さんです」。どうやら、ほや料理の第一人者らしい。


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 昼食は女将の解説付きで、ほやづくしの膳を囲んだ。生(刺身)、蒸す、焼く、フライ、スープ(らーめん)と様々だが、どれもこだわりの一品。中には、フライなどは、聞かなければほやと判らないだろう。「ココのほやは、海中の泥を生簀(いけす)で十分吐かせてから食べてもらうんですよ」。だから、臭みもなくて瑞々しい味わい。「ほやの苦手な方だって大丈夫」という。是非とも、お試しあれ・・。


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 ところで、種市のほやは天然がウリ。それだけ、養殖が多いようだ。しかも、磯の素潜り漁と思いきや、昔ながらの潜水服を着けて採取する。この潜水技術が"南部もぐり"として継承されている。県立種市高等学校には潜水技術の専門課程まであり、南部もぐり発祥の地と合わせて郷土の誇りなんですね。天然ほや漁が、潜水病の危険性を孕む潜り手たちによって営まれてきたことは意外と知られていない。プラス、マイナスの入水孔と出水孔をもつ奇妙な尾索(びさく)類。おろそかに食せなくなりました。


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 天然ほや燻製と天然ほや塩を土産に、外へ出ると演歌歌手ジェロの歌う"雪海"の世界。春は、まだ予感の中でした。


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岩手を旅する2〜南部美人

2010年3月18日木曜日 13:00

 盛岡二日目の朝。昨夜のアルコールやらで分厚い目蓋となった眠い目をこすりながら、携帯電話のコールに応じた。「そろそろ出発ですよ」。味研の小柳社長からだった。もう朝食をとる時間的余裕は無い。工藤社長の計らいで食堂のおばさんに用意していただいたオニギリを受け取り、ホテルの駐車場へと急いだ。青空が清々しい。いざ、二戸(にのへ)の酒蔵・南部美人目指してスタンバイしている車へ乗り込もうとした途端、「お早うございます」と、天女の声。きっと幻聴に違いない。・・ではなくて、これが本物のスラリとした南部美人からの挨拶。当ブログ「酒王」のお隣のブログ「野菜王」の執筆者・宮田恵さんだった。

 白磁のような肌にエキゾチックな容姿は、「ロシア人と間違えられるンです」。本人のおっしゃるとおり、堂々たる野菜クイーン(女王)の風格を備えておいでです。あらかじめ、今回のツアーへの合流は予定に組まれていたものの、うっかりスケジュールから見落としていた。とにかく、岩手医科大学にお勤めの先生でもある宮田さんと蔵元へご一緒するはこびとなりました。


 南部美人の酒蔵に着いたのは、ちょうど仕込み作業が開始されたところだった。有り難いことに、久慈専務自ら蔵の案内をしていただいた。酒造りの技術は、蔵人でも目指さない限り近寄り難い職人技の世だ。仕込み水一つとっても、水質の如何で酵母の働きに差がでるという。


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 この蔵には仕込み水用のりっぱな井戸があり、天蓋の窓から中が覗ける。その光景は、酒蔵の心臓を見るようで神々しい。この適度なミネラル分を含んだ仕込み水が、南部美人の個性的な味わいにどのような影響を与えるのか興味津々です。


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 また、麹室(こうじむろ)での作業はなかなか見学するチャンスが少なく、貴重な体験だった。外気温は5度前後だったろうか、30度以上でコントロールされる麹室との温度差に戸惑う。種麹の入った袋が、蒸米の上でおまじないみたいに振られると、黄緑とも見える麹の胞子が煙みたいにたなびく。蔵人と麹菌のミクロの対話が始まる。


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 仕込み時期ならではの楽しみの一つに、醪(もろみ)を杓で酌んでもらっての味見がある。醗酵途中の若々しい醪を恐る恐るゴクリ。これも、酒蔵訪問者ならではの特権意識をくすぐる。車の運転をしなければならない宮田先生の悔しがり方は尋常じゃあなかったですね。


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 それにしても、海外進出まで果したメジャーな銘柄・南部美人。さぞかし大規模な敷地で機械化の進んだ酒蔵だろうと、想像していた。しかし、伝統の手造りへのこだわりは徹底しており、蔵の規模もそれほど大きくない。人気の南部美人は、十分な人手のフル回転によって量産されていた。


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ラベル:

岩手を旅する1〜盛岡の夜は更けて......

2010年3月11日木曜日 13:00

 東京から日本列島を陸路で北上すると、タイムマシーンに乗って過去へ旅するような光景が展開する。新幹線の車窓をスクリーンに見立てるなら、関東で満開の桜が次々と五分咲き、つぼみ、そして雪深い冬木立の風景へと移り変わる。もっとも、逆に南下すれば二時間少々で冬から春へと季節を早送りしてしまえる。こんな経験が出来るのも、南北に伸びた列島ならではのことです。とりわけ季節の変わり目にはっきりとした風景の違いが楽しめます。


 今回も東京と盛岡の間、東北新幹線の窓にへばり付いていました。ホームへ降り立って、初めて流れ去った車窓風景が現実だったことを気温差とともに気付かされた次第です。そして、僕の到着を心待ちにしてくださった工藤祐二さんの案内で岩手県の採り立て食材が自慢の居酒屋「壱寸(いっすん)」へ伺った。もちろん初めての店で、工藤さんについても大事な事実を忘れていた。というのも工藤さんとは、東京の恵比寿にあるスペイン・バルで一昨年お会いし、乾杯の盃を交わした仲だった。そして去年、差し出し人の名前が無く製造会社名しか記されていない盛岡冷麺が届いた。美味しく頂いたので会社にお礼の電話を入れるも、留守電用の応答メッセージ。むなしく伝言を残す他なかった。


 その送り主が、満面の笑みを湛えた目の前の若き企業人・コラゾンカンパニーの工藤社長その人だった。岩手県の食材を全国にアピールするため、生産工程から飲食店の経営まで手がけている。店内のテーブルには社長のお母様とご友人といった方々が飲む気たっぷりの様子で待ち構えておられた。「あっちゃー!カンパーイ」。いきなり生ビールの乾杯が挨拶代わりだ。大皿に盛られた宮古産の海藻類のシャブシャブを、餓えたオオカミのごとくムシャムシャとやりました。そうとう野菜不足だったんです。一息ついたところで家族同様のお付合い。後から、やはり愛くるしい笑顔の社長夫人が挨拶に来ていただいた。お母様も宮古産の三陸わかめのシャブシャブが大好物らしい。当たり前のごとく健康なスポーツ系女性でした。そこへ、見ず知らずの盛岡美女が入店。ちゃっかり僕の膝に腰掛けて記念撮影をして別室へ消えた。携帯のシャッターを押した社長でさえ、「えっ、誰だっけ」。一同、一瞬、狐につままれた感じ。なんだか盛岡の夜は、急に春めいてきた。


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 二軒目はモツ肉がメインの「盛岡酒場ニッカツ」へ。工藤社長のお兄様も合流し、ホッピーのキンミヤ焼酎割りなど飲んだ覚えもあるが、純米吟醸酒・南部美人の味が印象深い。と、思ったら「彼が南部美人の五代目蔵元・久慈浩介です」。あれあれ、酒造会社の専務まで登場しちゃいました。差し入れの糖類無添加梅酒(南部美人の特許技術)が振舞われました。

こりゃあ少々出来すぎた話ではあります。スイマセン。


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 そんな訳で、明日は二戸(にのへ)にある南部美人の酒蔵へお邪魔することに・・。