球磨川という名のお酒

2022年9月9日金曜日 14:54

 球磨川という名のお酒



 夏のある日、吉田類のアトリエにお酒が届きました。「古典酒場」編集長で、酒場番組にも多数出演されている倉嶋紀和子さんからです。


熊本の「球磨川」という名前の焼酎でした。倉嶋さんは熊本県の出身です。


「球磨川と生きる 大和一酒造元 下田文仁」という小冊子が付いていました。

 球磨焼酎の蔵元である大和一酒造元さんは、令和2年7月の豪雨災害で甚大な被害を受けました。この時に球磨川は13か所で氾濫し、大和一酒造元さんの蔵のある人吉市は最大4.3メートル浸水しました。堤防を乗り越えた濁流は蔵を襲い、タンクは横転し水没。明治31年の創業当時から使い続けている麴室に住み着いていた、酵母菌をはじめとする無数の微生物も流されてしまったのです。



 蔵の味を受け継いでいくための、大切な酵母菌を失ってしまいました。
復旧作業をする中、大和一酒造元さんはある決意をしました。球磨川が運んできた土砂に微生物が残っていて、そこには焼酎造りを担う酵母菌もいるのではないか。それを使って新しいお酒を仕込んでみようと考えたのです。


 球磨川が運んできた自然酵母だけで醸す焼酎造りは、とても興味深いものです。原料をすべてタンクに入れた後は何もせずただじっと待つというもの。70年近く前の古い鉄窯の常圧蒸留器を使い、ゆっくりと出来上がった焼酎は「球磨川」と名付けられました。

 類さんお味はどんなでしょう。


「しっかりした香りを感じる。がつんと来た後にまろやかな旨味が広がるねえ」



美しく澄んだブルーのボトルを眺めながら、様々な思いをはせるでありましょう。