酒王 in 九州~その3 湯布院

2009年7月25日土曜日 17:24

 一年ぶりの湯布院は、まさに緑豊かなすり鉢状の桃源郷。地元の方々を交えての俳句会が目的だ。この時期、あいかわらず老い鶯の透明な鳴き声も緑の中を流れている。


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 こんな環境の所為か、空腹感を覚えるのも早い。真っ先にお邪魔したのは、金鱗湖脇の古式手打蕎麦「泉」。主の菊地三郎・翁はこの地に会津仕込の蕎麦を根付かせただけでなく、昨年、"どぶろく特区"の資格まで取得した。このどぶろく"しらゆふ"と、「泉」の蕎麦が実に合う。ひととおりの蕎麦尽くしコースに、せいろ蕎麦を二枚も追加してしまった。


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 俳句会は、湯布院の蛍が季題(テーマ)。暮れなずむ由布岳を仰ぎ、一行は蛍観橋辺りから小川沿いの散策コースを辿った。だが、蛍の出番は少々遅い。そのまま玉の湯旅館の方へ下って行くと、思いがけず湯布院神楽の野外イベントに出くわした。演目は、スサノオの命(みこと)のヤマタノオロチ退治だった。これも太古の治水事業になぞらえており、クシナダ姫、つまり稲田を荒ぶる洪水・ヤマタノオロチから救うという物語。かがり火の中、熱心な保存会メンバーの演出はモダンで迫力がある。


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 かがり神楽の後、日はとっぷりと暮れて、いよいよ蛍との幻想的な対面が始まる。光りで招き合う蛍の不思議に、其処此処となく歓声が上がる。もっとも、一番大騒ぎしていたのは僕らしい。蛍のオスは約10日、メスで約二週間の成虫期間を終える。成虫は水だけで生き、昼間は活動しない。夜の7~8時ごろ、緑がかった蛍光を数秒ごとに共鳴させて、お互いが認知し合う。この蛍の生態を人から観れば、儚い魂の浮遊とも映る。結局、開始時刻が遅くなった句会は、深夜に及んだ。発表された作品は蛍の句が盛りだくさんだったものの、オロチより怖いスサノオのお面を妻に見立てた句もあった。

 因みに蛍の俳句は、亡き母の魂や、燃え落ちる恋をイメージした名句が多々ある。そういう名句の印象が強く、僕も死後の世界へ思いを馳せて句作する他なかった。そのうちの一句。


「我もまた ひとつ蛍の 灯(ともし)かな」。


 句会をサポートして頂いた遊験館のオーナー・菊地昇さんをはじめ、はからずも残業させてしまった番頭の近藤さん、ついついご厚意に甘えさせて頂きました。湯布院の蛍を守る皆様に感謝です。