三浦半島、佐島漁港沖にて大謀網(だいぼうあみ)を見る

2009年10月25日日曜日 22:09

 まだまだ、東京の立ち飲み人口は急増中ですね。ありゃあ、この通りにも立ち飲み屋が......。なんて驚いております。なら、『東京・立ち飲み案内』(メディア総合研究所)の本だって役立つだろうと、編集担当の近藤さんと出版アドバイザーの櫻井さんのアイディアで六本木の青山ブックセンターにてキャンペーンを催していただいた。これには、菊水酒造からの支援もいただけ、菊水の日本酒缶と立ち飲み本の見事なコラボ・ディスプレイとあいなった。


 僕も、ちょっと現場に立ち寄りましたが、なんと噂の米国育ちの・味香り研究所の小平由梨嬢もキャンペン・ガールっぽく参加くださっていた。小平嬢は、大男で博多男児の小平カメラマンを父に、スリムな熊本美人を母に持つ才女。ま、美形は母譲りですな......。ご苦労様でした。

 

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 先週の土曜日、入手したばかりの菊水酒造の「ひやおろし・純米吟醸」と、にごり生原酒「菊水・五郎八」を手土産に逗子の飲み仲間を訪ねた。夕方、JR湘南新宿ライナーで逗子駅に着くも、目指す中野邸への道順を忘れていた。持参の酒が重いこともあって、タクシーを利用。「もしもし、どこを目指せば良かったんだっけ」と、携帯電話で聞けば。「何言ってるのよ。歩いたって5分よ」と、中野夫人。そこへ、「どちらの飲み屋さんへ行くんですか」と、タクシー・ドライバーが心配そうに声をかけてくれた。運転手さんには我が素性も何故かバレバレ。とにかく中野邸近くのコンビニ前まで、ワン・メーターのごやっかいとなりました。


02.jpg 車を降りると、ひときわデカイ中年男が手招きする。日本の漁師町の食べ歩きルポで知られた西潟正人さんだ。けっこう大男には縁がある。


 中野邸での酒宴の口火は、菊水の「ひやおろし・純米吟醸」だった。飲酒器の贅沢に揃ったガラスの食器棚から、備前焼のぐい呑みを選んで駆けつけ三杯。やはり、ひやおろしは夏越しの熟成味がまろやかなんです。これに、西潟氏の熟練技で酢ジメした小鯵を合わせた。三浦半島は横須賀の居酒屋あたりで好まれるヒシコ鰯に似ている。小振りの片口鰯などを酢ジメしたものだが、地方ごとに呼び名も違う。

 だが、小鯵の場合は10~15センチほどの片身で、しかも薄皮を首の方から剥いで食す。「喰う直前に、自分で皮を剥くのがコツなんですよ」と、西潟氏の得意顔。粋な漁師料理の食い方らしい。これに中野夫人の手料理も加わり、総勢7人で囲むテーブルの酒瓶は次々と空いていく。で、〆の酒が、菊水のにごり酒「五郎八」。このにごり酒が、先の酒税法改正で清酒の範疇からリキュール類の仲間に入った。でも、製造法は変わらない。むしろ、今年のにごり酒は風格が増した感じだ。

 

03.jpg↑中野邸の厨房にて。包丁さばきも見事なN出版のNさんたち。


 

04.jpg↑定置網漁ツアー(後述)を企画していただいた西潟正人さん。


 ところで、酒宴は深夜2時近くまで続いたようだ。僕も、中野邸二階のゲストルームで、醸造樽と化して眠りこけた。突如、「朝ですよ~。起きて出発ウウウ~」と、怒鳴り込んできたのが中野さんだった......はず。一瞬の事で覚えていない。とにかく、反射的に飛び起きてウインドブレーカーを羽織り、消防士みたいな早業で支度した。朝の4時半前後の外は、まだ暗い。そうだ今日は、三浦半島、佐島漁港沖の大型定置網漁の見学日だった。


 この定置網漁は、大謀網(だいぼうあみ)と呼ばれる大掛かりなもので、日本海の富山湾の漁師から伝わる漁法という。西潟氏に準備してもらった見学ツアーだ。半ば朦朧としたまま、あたふたと迎えのワンボックス・カーに乗った。途中、未明の道路わきで、ひどく待ちぼうけを食わされた中野さんの上司(N出版の社長)も乗り合わせる。そして、ほどなく佐島漁港に着くなり、煌々たる照明の眩しい定置網漁の母船へ飛び移った。我々の所為で、わざわざ出航を遅らせたらしい。恐縮至極です。

 

 出航して十数分も経っただろうか。船尾から望む光景に目を遣れば、暗闇の中にあった半島のシルエットと水平線が徐々にバイオレットを帯び、初め赤い点だった太陽は膨らみながら勢いづいてくる。いよいよ定置網場だ。舟の縁に取り付けられた滑車が回り、網を手繰り寄せては沈め、魚群の範囲をせばめる。巨大な謀り網に掛かった獲物が、定置網の一方へ追い詰められていく。待ってましたとばかりに鴎が群れ来る。クレーンに吊るされた掬網(すくいあみ)が次々と海の幸をさらう。サバ、シイラ、ブリ、イカ......。時折り、鯛の混じることもある。魚体のバイブレーションと飛沫、甲高い鴎の猫鳴き声。ただ黙々と立ち働く漁師たち。甲板の其処此処に、ひらぎの葉に似た小魚が光る。土佐ではニロギと呼ばれ、炙り焼きして酒のツマミにする。


 

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06.jpg 漁師の一人がスルメイカの煙突焼きを作ってくれた。スルメイカの胴の部分を母船の煙突に貼り付けて焼いたものだ。「以前、横須賀の居酒屋で一緒に飲みましたよ」。えっ、そう言えば、特異なウェーブの茶髪に見覚えがあった。嬉しい再会じゃあないか。手渡された煙突焼きが、ひときわホクホクと甘く感じられる。横から、西潟氏がひょいとアサヒの缶ビール(発泡)を突き出した。相模湾の神の計らいにカンパ~イです。


 

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 漁港に戻ると、漁師たちは休み間も無く魚の仕分け作業をする。その様子を漁協建物の上層に行儀良く並んで見守るのが数十羽の鳶(とんび)たち。仕分けケースからこぼれた落ちた小魚を、天に投げ上げてみた。すると、目ざとい鳶がスーと急降下して掴み取る。秋の日曜日は、一段と空の青が深く澄む。


 


08.jpg 近くの番屋で、取れたての魚をおかずに朝食、となった。一旦、逗子の中野邸へ戻ってワインを嗜みながら、どっさり仕入れた魚の処理に付き合う。では、そろそろお開きか、なんて常識は逗子の中野家に無い。またぞろ居酒屋に出向いて昼の酒。つづいて、なぎさ通りにある立ち飲み屋の「三遊亭」へ、午後二時の開店を待ってお邪魔した。立ち飲みフロアで黒生のビアグラスを干し、飲み干しては二階のトイレを利用する。幸か不幸か、適当な運動時間をはさめば悪酔いしない体質だ。けれど、この酔いの境地に入ったら時間の流れはゆったりと蛇行し始める。一時間が十分くらいにしか思えなくなるから恐ろしい。


 

09.jpg↑逗子の社交場となっている立ち飲み屋「三遊亭」のマスターと......。


 あげくの果てに、新宿湘南ライナーの終電が新宿駅へ着いたところで、目覚めた。